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会計検査院一職員のメモ辻敬一の時代>会計検査院法第36条


会計検査院法第36条権限の積極的行使

 現行会計検査院法は第36条で次のように規定している。
 会計検査院は、検査の結果法令、制度又は行政に関し改善を必要とする事項があると認めるときは、主務官庁その他の責任者に意見を表示し又は改善の処置を要求することができる。
 すなわち、法令、制度、行政に関して改善すべきとの認定があれば、責任者に対してその旨の意見を表示することができるし、さらに、意見表示にとどまらず、改善の処置を要求することもできるのである。明治憲法下の会計検査院法には類似の規定として次の第15条があった。
 会計検査院ハ各年度ノ会計検査ノ成績ヲ上奏シ其ノ成績ニ就テ法律又ハ行政上ノ改正ヲ必要トスヘキ事項アリト認ムルトキハ併セテ意見ヲ上奏スルコトヲ得
 すなわち、法律又は行政について改めるべきことがあれば主権者である天皇に対して意見を表示することができたのである。これにより、明治から大正にかけて17件の意見が検査成績書によって上奏された。しかし、主務官庁に対しては法律上の権限はなかったため、当局に注意喚起すべきことがあれば、運用上、「注意書」を発するにとどまっており、検査の結果を直ちに行政に反映させることが困難であった。この新院法第36条と第34条(不当な会計経理があった場合に直ちにその是正と将来の会計経理についての是正改善を求めることができる。)で「会計経理の監督」が充実したものとなることが期待された。
 もっとも、新院法施行直後は敗戦後の混乱期であり、不当事項が多発していたことから、36条の行使の機会は少なく、23年に2件、25年に3件、28年に2件、31年に1件ということで、32年から36年まではなかった。37年に至って5件の36条行使を行っているが、この背景には、(1) 不当事項が急激に減少してきており、それに対応して検査内容の転換を図るべきだという「検査の曲がり角」論が35年頃から院内的に生じていたこと、(2) 36年2月の衆議院予算委員会12月の衆議院決算委員会で、34条と36条権限の積極的行使を求める声があったこと、があったとされている。その後、44年に従来36条を行使してきた予定価格の積算基準、工事の設計基準に係る指摘について、会計経理の不当性を認定することにより34条を行使すべきであるという方針変更がなされたこともあってか、36条行使は数年に数件という程度になった。
 そのような状況下で54年0件、55年1件、56年1件、57件0件だった36条の行使が、58年に至って突然4件に増加している。続く59年は3件、60年には8件、以降61年4件、62年4件(うち2件は34条との同時行使)、63年1件、平成元年4件、2年4件(うち1件は34条との同時行使)、3年7件と定着しており、58年が一つの転換点だったということができる。
 58年の36条行使の3件は、「福祉施設の設置及び管理運営について適切な事業実施を図るよう意見を表示したもの」、「国内産葉たばこについて過剰在庫を解消するよう意見を表示したもの」及び「電報事業についてその収支の改善を図るよう意見を表示したもの」である。このうち葉たばこに関する事案は、昭和52年度決算検査報告に「特に掲記を要すると認めた事項」として掲記した「葉たばこの生産及び調達について」で取り上げた問題を再び取り上げたものであり、「特に掲記を要すると認めた事項」としてではなく、36条を行使したところに、この年に36条が積極的に行使されたことが示唆されている。
 そして、翌59年には、「事業の抜本的な見直し」を求める意見も36条に基づいて表示されている。昭和58年度決算検査報告掲記の「集団育成事業について抜本的な見直しを行い、適正な事業実施を図るよう意見を表示したもの」である。そして、意見表示の結果について、昭和59年度決算検査報告は次のように記述している。
 農林水産省では、中核的農業者を中心とした営農集団を地域農業の担い手として位置づけ、その効率的な生産活動の促進を図ることが重要であるとして、各種の集団育成事業を実施しているが、これらの事業において、事業の実施状況が確認できないもの、経理が適切でないもの、効果が上っていないと認められるものなど不適切な事態が多数見受けられたので、集団育成事業について抜本的な見直しを行い、真に必要な事業に限って今後実施することとし、その場合は事業実施について特段の注意を払い、もって集団育成事業の実施の適正を期する要があると認め、昭和59年11月に意見を表示した。 これに対し、農林水産省では、本院指摘の趣旨に沿い、60年度以降は営農集団に対する補助は行わないこととし、59年度に実施している事業についても59年12月に都道府県等に対して通達を発するなどして集団育成事業の適正な実施を図る処置を講じた。
 「補助は行わない」、つまり、会計検査院が意見を表示した結果、当該事業が廃止されたのだ。これは、当時としては画期的な検査成果であった。